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SAITO Meo|夜影記

齋藤芽生

2022年9月17日(土)~10月15日(土)

六本木アートナイト連動企画

 

営業時間:13時-18時半(最終入場)

休廊:火曜、日曜、祝日

9月18日ー20日/10月9日ー11日は連休

 

絵画と言葉で、日本の風土と情緒を描く齋藤芽生。六本木アートナイトに合わせ、齋藤芽生は初の映像作品を発表。都市をさまよい、旅を源泉としてきた齋藤が、現実の風景からどのように絵画へと昇華させたかのヒントともなる興味深い内容となっている。また夜にまつわる絵画として過去の連作「踊場(おどり)酒場(ばー)」(2003)に、新作の絵画を加えて展示。

 

映像は下記リンクから

https://www.youtube.com/…

 



 

夜影記

齋藤 芽生

 

私が「夜」を表現し始めたのが、これら2003年の【踊場酒場】シリーズだった。 20代後半。勤め先の新宿からアパートまで様々な夜景を迂回しながら帰った。盛り場のネオンの色と集合住宅の蛍光灯の仄暗い色が交互に脳裏に記録される。都市の建造物が纏う夜光をとにかくストイックに描いてみたい、という思いが生じた。

 

【踊場酒場】はまた、自分が大事にしてきた言葉の要素を活かしたい作品でもあった。 「かつての裏通りでは、往年の名作小説や映画音楽の題名が、歌声喫茶や文壇バー店名になっているのを見かけた」という母の昔語りを耳にしたことがきっかけで、作品のイメージに結びつく架空の酒場の店名を紙に書き出してみたのだ。

スタンダール「赤と黒」ジイド「狭き門」などの海外文学、「女王蜂」は1960年代のイタリア映画、「朧」は青江三奈の「恍惚のブルース」の歌詞からの言葉… 2003年当時からしてもだいぶ手の届きにくくなっていた往年の文化の面影を追って、私なりのスナックやバーを想定した。ただしその場は繁華街でも路地裏でもない。私が以前から描き続ける都市外れの団地や集合住宅の階段踊り場にある酒場ということにして、制作が進んだ。 その後の20年で自分の絵には風景の広がりが加わるようになった。今新たに「踊場酒場」を描いても、当時のようにストイックなまで要素を排除した階段の構造を描きたいと思えない。ある種の祝祭空間が踊り場に展開されているように描いてしまうのだが(「漁火」「浄蓮」)、背後にあるのは相変わらず懐かしい歌謡曲の世界観だったりする。

 

また今回、一部紹介する短い映像作品は、今後続けていく予定の映像日記の予告編である。

私は映像作家でも写真家でも作曲家でもない。ただ、絵のように専門的な訓練は受けていないが、絵を描くまでの時間に膨大な量の写真を撮り音楽に触れ、また同じ美術家である夫の作品を手伝って映像編集に携わったりもしている。自分ができることを総動員していつも創造性を働かせる生活なのだが、そういう生活の舞台裏は、今までの個展で曝け出されはしてこなかった。

私という一画家が、絵を描く時間以外でどのような風景を眼差し、素材を選んで絵のイメージとすり合わせていくか。それを映像や音楽で残す作業もこれからは紹介していこうと思っている。私には日常の楽しみの領域だが、今後は他者に見せる上で新展開になるかもしれない。